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Back-Water Blues


洪水のことをテーマにしたブルースが何度も録音されている．洪水のことを歌った一連のブルース曲に関して，ブルース学者のデイヴィッド・エヴァンズが詳しいリサーチをしていて，High Water Everywhere - Blues and Gospel Commentary on the 1927 Mississippi River Flood（in Robert Springer Ed., Nobody Knows Where The Blues Come From: Lyrics And History）という論文にしている．その論文の中で，エヴァンズは色々な洪水ブルースについて歌詞を分析し，歌手がいつどこで起きた洪水から発想を得ているかに迫ろうとしている．その中でもベシー・スミスのBack Water Bluesは大きく扱われている．

エヴァンズは学者らしく，色々な証拠を積み重ね，ベシー・スミス自身が作ったこの歌は，彼女が1926年の12月28日から1927年の1月9日の間に，テネシー州ナッシュヴィル滞在時に体験した洪水に基づいていると論考している．スミスはこの歌を1927年2月17日に録音し，しばらくしてレコードは発売されたが，ちょうどその頃，今度はミシシッピ州などでも洪水が大きな被害をもたらしており，そのことが追い風になったことだろう．レコードは大ヒットとなって，多くのカバー・バージョンが生まれている．それで，この歌をカバーしている連中の名前を見ると，ピアノ奏者，特にブギウギ・ピアニストと呼ばれるような人が結構いる．これ，ピアノ・ブルース／ブギウギの定番曲と呼んでも良いのではないか．


主な録音

  1. Bessie Smith, Back-Water Blues, (Columbia 1927年), CD: Frog DGF44, JSP 930.
  2. Albert Ammons, Backwater Blues, (Blue Note 1939年), CD: Blue Note CDP 7 98450 2.
  3. James P. Johnson, , (Blue Note 1943年), CD: Classics 824.
  4. Memphis Slim, Backwater Blues, (Folkways 1960年), CD: Smithsonian Folkways SFD CD 40128.
  5. Skip James, Backwater Blues, (Vanguard 1967年), CD: Vanguard 79705-2.
  6. Sammy Price, Back Water Blues, (Black & Blue 1975年),
  7. Sunnyland Slim, Backwater Blues, (Red Beans 1983年), CD:Evidence ECD 26066-2.

ここに挙げたもの以外にも，ピアニストではカウ・カウ・ダヴェンポート，ダスキー・デイリー，スペックルド・レッド，バスター・ピケンズが録音しているが，これらの録音は現在まで発売されていない．

このように，ピアニストのレパートリーになることが多かったのは，オリジナルのベシー・スミスのバージョンがピアノだけをバックに歌われていて，しかもそのピアノが大活躍しているからだろう．奏者はジェイムズ・P・ジョンソンで，彼はジャズ・ピアノの草分けみたいなイメージがあるが，ブギウギ・ピアノやメランコリックなブルース・ピアノもたまには聞かせる人でもある．ジョンソンはレコードもあるが，自動ピアノのピアノ・ロールも作っていて，そのうち1921年に作成したArkansas Bluesはブギウギ・ピアノの最初期の記録として価値が高い．このベシー・スミスの曲でも，最初の方はゆったりとしたブギウギのパタンを使っている．ジョンソンは，歌詞内容に合わせて伴奏に多彩に表情を付けていて，他のピアノ奏者にしてみれば挑戦しがいのある演奏だっただろう．

ベシー・スミスの伴奏で録音してから16年後，ジェイムズ・P・ジョンソンは自身でもこの曲を録音している．これは，ベシー・スミスの歌ったメロディーを使ったインストゥルメンタルになっている．しかし，インストゥルメンタルとして演じたものなら，断然アルバート・アモンズのバージョンだ．アモンズのベストと言えそうなBlue Noteレーベルのセッションで録音されたもので，同セッションの他の曲と同じように，アモンズはこの曲でも情感豊かで素晴らしい．

ベシー・スミスのオリジナルに比較的近い感覚を持っているのは，サミー・プライスが1975年にフランスで録音したものだろうか．メアリー・バグズという女性歌手に歌わせていて，ベース，ドラム，トロンボーンが入ってピアノ・ブルースのスタイルとは言いにくいが，プライスはスムースで暖みのあるサポートをしている．

スキップ・ジェイムズのピアノは，過剰なくらいパーカッシヴだけれど，1967年に録音したBackwater Bluesではそれほど極端でない．それでも，いつもながら独特の世界を作っている．メンフィス・スリムやサニランド・スリムまでレパートリーにしているところにも，この曲の人気が伺われるのではないか．