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Burnell Santiago
ルイジアナ州ニューオーリンズといえば，長い間地域性豊かな音楽を産み出してきた都市である．とりわけ戦後のニューオーリンズのR&Bには熱烈な支持者も多いことだろう．戦後のニューオーリンズのR&Bのスターと言えばファッツ・ドミノ，シュガーボーイ・クロフォード，ヒューイ・スミス，アーチボールド，プロフェサー・ロングヘア等ピアノ弾きが多い．彼らに比べれば裏方だろうが，ポール・ゲイトゥン，タッツ・ワシントンらも忘れられない．「ニューオーリンズのリズム・アンド・ブルースの発展に関し，最も重要な楽器であったのは間違い無くピアノだった（Jeff Hannusch, I Hear You Kockin', Swallow Publications）」と言われるのも当然である．では，彼らのニューオーリンズ・ピアノのスタイルはどこから来たのだろうか？
ニューオーリンズには，戦前，いやレース・レコードの成立以前から続くピアノ弾きの系譜がある．昔，戦前のニューオーリンズのピアノ奏者は正規の音楽知識を持つ「プロフェッサー」と，もっぱら安酒場でブルース中心に弾く「バレルハウス・プレイヤー」の2系統があった，という．このうち，戦後のニューオーリンズR&Bとの縁が深いのはバレルハウス・プレイヤーの方ではないかと思う．ニューオーリンズのバレルハウス・プレイヤーとして名前が挙げられる一連の人々の中で特に興味深いのがバーネル・サンティアゴである．
とにかく誰もが天才と評判した人物である．サンティアゴは1915年9月にニューオーリンズで生まれ，同地で1945年1月6日に29歳の若さで病死している．若い頃から神童と見られていたようだが，商業録音というものをしなかった．彼の音楽に対する高い評価からすれば商業録音が無いのは何とも残念で，その音楽を聞きたいという欲求を余計かきたてられるように思われる．
戦後のニューオーリンズ・ピアノとサンティアゴの関連としては，アーチボールドにとってのメイン・インフルエンスが（少し歳下の）サンティアゴだった（John Broven, Rhythm & Blues in New Orleans, Pelican）という話がある．タッツ・ワシントンの昔話にもサンティアゴの名前は出てくる（Jeff Hannusch，前掲書）．また，ファッツ・ドミノは1974年2月の来日時に，日本の雑誌のインタビューで「特に印象に残っているブルース・ピアニストをあげて下さい」という問に対しこう答えている．「バーネル・サンティアゴと云う人が，俺と同じ様なピアノを弾いていたな．符は読めないんだけれど，確かレコードがあると思うよ（日暮泰文，"Fats' 88", ザ・ブルース，No.10, pp.60-62.）」．これだけでファッツのピアノに対するサンティアゴの影響は云々できないが，サンティアゴが戦後のスタイルに共通する斬新さを持っていて，特に記憶に残る存在だったことは推察できる．ところで，このインタビューでファッツ・ドミノが言った「レコードがある」というのは本当だった．サンティアゴは商業録音はしなかったが，1942年4月にプライベート録音をしていて，その盤は発見され，コレクターのJohn Reid氏が保管しているのだ．そして，その盤の両面に記録されたSt. Louis BluesとDeep in the Heart of Texasの2曲，合計して3分あまりの音楽はCDに復刻され，誰もがこの伝説のプレイヤーを聞くことができる．
さて，その2曲だが，どちらも歌無しのピアノ・ソロである．惜しいことには紙製の盤に行われたプライベート録音ということで，音質がひどい．音が悪いためその音楽の詳細を聞き取るのは困難で，奏者の技量をこれで評価するのは不適当かもしれない．それでもSt. Louis Bluesの演奏には大変な才能が感じられる．無論W.C. Handy作の，あの曲だが，主旋律にSt. Louis Bluesのメロディーを用いているだけで，2コーラス目からすぐに猛スピードの目のくらむようなブギウギ・ピアノを展開する．この演奏には何度も聞き返さずにはいられないパワーがあり，伝説は本当だったことを思い知らされる．もう1曲の方はリラックスしたラグタイム調の曲で，St. Louis Bluesほどの密度は無いようにも思うが，リズムの弾み具合はやはり非凡だ．
サンティアゴの録音が少なすぎて，残った録音が短すぎる上に音が悪すぎたのは，ニューオーリンズ音楽史上の損失だった．しかし，残された録音はバーネル・サンティアゴがニューオーリンズ・ピアノ史上の傑物であったことを証明している．
CD
V.A., The John Reid Collection 1940-1944, American Music AMCD-44.
バーネル・サンティアゴが残したたった2曲のプライベート録音を復刻したCD．サンティアゴ以外はシドニー・ベシェとか，その手のニューオーリンズ・ジャズの録音．
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