Cooney Vaughn

クーニー・ヴォーンは録音は少なかったが，戦前のミシシッピ州南部，南東部では名人として伝説的な存在であって，逸話はいくつか残っているようだ．SonyのCD, Good Time Blues (Sony SRCS5679)の解説書（David Evans）には彼が多才でジャズ・バンドでも演奏し，オルガンでトロンボーンのような音を出すこともできたという話が出ている．また，ミシシッピ州出身で，多くの成果をあげているリサーチャー，ゲイル・ディーン・ワードロウによれば，ワードロウの地元メリディアンではブルースマンというよりもポップ・ミュージシャンとして知られていたということだ（Wardlow, Chasin' That Devil Music, p.193.）．戦前はラジオ番組に毎週出演していて，「あらゆる種類の音楽を弾いていた」とも言う．恐ろしく芸域の広い，しかしピアノ・ブルースが特に得意なピアニストの姿が思い浮かぶ．

ヴォーンに関する話の中で特に印象深いのはリトル・ブラザー・モンゴメリーがヴォーンを「今まで聞いた中で最良のピアノ奏者に入る（Oliver, Conversation With The Blues, p.66）」と絶賛していることだ．あの名手が褒めるのだから，やはり優れていたのだろう．モンゴメリーが何度も録音しているTremblin' Bluesはこのヴォーンに授けられた曲だと言う．モンゴメリーは，この曲をリラックスした雰囲気のスロー・ブルースとして演奏している．その曲調はヴォーン自身が残した録音の雰囲気とは必ずしも一致しないが，もっと録音機会が与えられていればヴォーンもこんなスロー・ブルースも残していたに違いない．

クーニー・ヴォーンが残した曲で現在私達が聞くことのできるのは僅か4曲のみである．いずれもミシシッピ州ハティエスバーグのブラインド・ルーズヴェルト・グレイヴズ（ギター）とウーアロイ・グレイヴズ（タンバリン）の兄弟との共演で，ミシシッピ・ジューク・バンド名義で出されている．4曲とも快調なダンス・ナンバーで，ヴォーンのパーカッシヴで鮮やかなピアノは素晴らしい．ディスコグラフィを見るとその２日前にソロで録音もしているようだが，これは現在までまったく発表されていない．

ヴォーンの経歴の詳細は不明だ．1936年に録音するまで20年間もミシシッピ州ハティエスバーグでピアノを弾き続け，そのおかげでハティエスバーグの町はブルース・ピアノの中心地になったという．リトル・ブラザー・モンゴメリーもヴォーンがハティエスバーグ出身だと言っている．ワードロウの本にでている情報では，録音後のヴォーンの経歴は人を射殺したかどでアラバマ州立刑務所に入っていたとか，ハティエスバーグで線路上で眠ってしまい，列車にひき殺された，とかどうも明るい話がないようだ．

CD

Sony(J) SRCS 5679, V.A., Good Time Blues.

ウォッシュボード，カズー等，手製楽器的なものを使った演奏が多く含まれるCD．クーニー・ヴォーンの参加したミシシッピ・ジューク・バンドの4曲が良い音で聞ける．ピアノ・ブルースとしては他にバーニス・エドワーズ，サン・ベッキーらを聞ける．

Document DOCD-5105, Blind Roosevelt Graves, 1929-1936.

グレイヴズ兄弟のパラマウント(1929年)とARC(1936年)の録音を集めたCD．ミシシッピ・ジューク・バンドの4曲はこちらにも入っている．音質はSony盤よりは落ちるのだが．

Cooney Vaughn

CD

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