Eddie Miller

エディ・ミラーというブルース・ピアノ奏者の名前を初めて知ったのは，Magpieレーベルのピアノ・ブルース・シリーズ出たLP，The Piano BLues Volume Two, Brunswick 1928-30（Magpie PY4402）を通じてであった．そのLPにはチャーリー・マクファデンの伴奏を付けたものや，自己名義の録音が収められていたが，ミラーの非常に美しい，叙情的なピアノ演奏を聞いて「こんなブルース・ピアノもあるのか」と新鮮に感じたものだった．泥臭さや荒々しさを個性とするピアニストがいた一方で，それと正反対の個性で，しかも深い，一度聞くと病み付きになるブルース感覚を持っていたバレルハウス・ピアニストのように聞こえる．

長い間この人の経歴は分からなかったようだ．自己名義の録音をシカゴで行っていたため，DocumentレーベルのCDではChicago Pianoなんていうタイトルのものに収まっている．しかし，その解説書にはミラーの正体についてはっきりしたことは書いていない．歌詞やチャーリー・マクファデンの伴奏をしていることからセントルイス出身と推測しているだけだ．ところが，最近になって彼のことがもう少し分かってきた．セントルイスのブルース歌手兼ギタリスト兼ピアニストのヘンリー・タウンゼンドがミラーのことを覚えていたからだ．

ヘンリー・タウンゼンドが覚えている位だから，エディー・ミラーというのはセントルイスで活動したピアニストである．タウンゼンドがそのインタヴユー本A Blues Life（by Henry Townsend and Bill Goldsmith, University of Illinois Press）の中で述べているところによれば，ミラーはルーズベルト・サイクスが人気をさらう以前からその町で活動していたという．意外なのは音楽性で，ミラーとDeloise Searcyはポピュラー・ピアニストと呼ぶような人達だったという．この二人は白人クラブでも出演したし，演芸の下座（entertaining）でも何でもしたというのだ．それでもミラーは自分のスタイルを持っていて，「単なるブルース屋（a dead blues man）」ではなかったとタウンゼンドは認めている．ミラーのレコードはブルースばかりだが，実は仲々芸域が広い音楽家だったようだ．

上の本によれば，女性歌手のLuella Millerというのがエディー・ミラーの女房で，二人はDago Hillという地域にあったCompton Hillsという黒人居住区に住んでいたそうだ．タウンゼンドはエディ・ミラーは女房のルーエラ・ミラーの録音で伴奏もしたと言っている．しかし，戦前ブルースのディスコグラフィーでルーエラ・ミラーの項を見てもこれを確認できない．もしかしたらピアニストが不明とされているセッションでエディ・ミラーが弾いているのかもしれないが，ルーエラ・ミラーの録音を聞いてもエディ・ミラーとはっきり分かるピアノは聞くことができない．

エディー・ミラーは鋳鉄工場か何かの定職に就いていて，音楽活動はさほど活発ではなかったようである．ルーエラ・ミラーが録音の数年後に教会に入って以後のエディー・ミラーの消息についてはタウンゼンドも知らないらしい．

エディー・ミラーの自己名義録音は1929年10月と12月に計4曲（3曲発売），1935年に2曲（未発表），1936年に2曲（2曲発売）ある．ピアノが美しく味わい深いのは上に述べた通りだが，歌も渋い声で聞き物だ．特に1929年の3曲が良い出来だ．1936年のI'd rather drink muddy waterはブルース形式ではあるが，ややボードヴィル・ブルース的というのか，「ポピュラー・ピアニスト」的な面が出ているようだ．

伴奏者としてミラーはかなり色々な歌手の録音に登場している．ディスコグラフィーに出ているところではMerline Johnson，Charlie McFadden，Billy McKenzie，Lizzie Washington他のセッションでミラーが弾いている．中でも注目されるのはチャーリー・マクファデンの伴奏を付けた4曲だろう．マクファデンの個性的な節回しを持った力強い歌をミラーは完璧にサポートし，層の厚いセントルイスのピアノ・ブルースとしても屈指の傑作となっている．これはお勧めしたい．

CD

Document DOCD-5191, V.A., Chicago Piano - The Complete Recorded Works of Eddie Miller, John Oscar, George Noble (1929-1936).

エディー・ミラーの自己名義録音で発売された5曲が全部聞ける他，ビリー・（ウィリー・メイ・）マッケンジーの伴奏を付けた2曲も収められている．ミラーの変名だとも言うエディー・モーガンというのも入っているし，ミラーがジョン・オスカーの伴奏をしている曲があるとも言うが，この辺の真偽はよく分からない．

Document BDCD-6041, Charlie "Specks" McFadden, Complete Recorded Works In Chronological Order 1927-1937.

ミラーが伴奏した4曲（Charlie "Speck" Pertrum名義）が入っている．ピアノ・ブルースの好アルバム．

Eddie Miller

CD

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