Charlie Segar

チャーリー・シーガーというピアノ奏者兼歌手は，自己名義の録音を1934年9月デッカ・レーベルに2曲，1935年1月に同じくデッカに2曲，1940年にヴォカリオン・レーベルに4曲残している．戦前ブルースのディスコグラフィによれば1934年9月にもARCにテスト録音をしているそうだ．デッカの4曲はピアノのみによるインストゥルメンタル曲である．1934年9月の2曲は自作らしいミディアム・テンポのブギウギ曲，1935年1月に録音したのはCow Cow BluesとBoogie Woogieで，後者はPine Top's Boogie Woogieの改作なので，どちらも有名ブギウギ曲ということになる．これらの曲のレコードにはアーティスト名がCharlie Segar (Key Board Wizard Supreme)と記されていた．1940年のヴォカリオン録音はドラムスだけをバックに4曲すべて歌入りのピアノ・ブルースとなっている．その他，1930年代に伴奏者として数人の歌手の録音に参加しているようだ．

レコード会社がKey Board Wizard Supremeの異名をレコードに記したのであるから，シーガーの売り物はピアノ演奏の技術ということになる．録音を聞いてみると，洗練された演奏で，手数が多いというのか，派手で華やかなところがあり，それなりの聞き物ではある．しかし，何かもう一つ物足りないような感じもする．ヴォカリオン録音の歌物を聞いたところでは，歌手としては悪くはないが平凡というところだろう．しかし，この人の本領はレコードだけでは分からない部分にあったのかもしれない．

チャーリー・シーガーのことを語っているミュージシャンは何人かいる．女流ピアニストでクラシック・ブルース風の歌手でもあるBillie Pierceは，彼女の育ったフロリダ州Pensacolaがシーガーの出身地だと言っている（Paul Oliver, Conversation with the Blues, Cambridge University Press, p.88）．ピアースの証言によればシーガーはピアノだけでなく，トランペットもかなり演奏できたということだ．目隠しをして一方の手でトランペットを演奏し，他方の手でピアノを弾くという離れ技をすることがあったという．また，ピアノの鍵盤をシーツで覆い，その上からピアノを演奏するという技をピアースに教えたともいう．どちらも「鍵盤の魔法使い」の異名にふさわしい面白い芸である．このような芸はレコードによる音だけの記録では後世に伝わらないのが惜しいが，ブルースが演奏される場では人気を得るものだったに違いない．

一方，リトル・ブラザー・モンゴメリーは「チャーリー・シーガーは自分の従兄弟だ」と言っている（Karl Gert zur Heide, Deep South Piano, Studio Vista）．モンゴメリーによればシーガーの出身地はルイジアナ州Lake Charlesだという．また，戦後アトランティック・レーベルに少し録音を残したFrank Sweet Williamsはシーガーの出身地を同州Monroeだと言っていたそうだ．Karl Gert zur Heideの前掲書によれば，シーガーは1940年代後半に人気のあった女性歌手Nellie Lutcherと結婚していたことがあるという．

ピアース，モンゴメリー，ウィリアムズがそれぞれ別の場所をシーガーの出身地として挙げているのは困るが，モンゴメリーの従兄弟だとすれば，ルイジアナ州で生まれ，フロリダ州でしばらく活動していた，と考えれば矛盾が少ないだろう．チャーリー・シーガーの生年は1904年頃と考えられており，1960年代にはシカゴで存命であったそうだ．

チャーリー・シーガーの残した録音は良いけれども，特別に凄いとは言う程ではない．しかし，そのライヴ・パフォーマンスの魅力がビリー・ピアースの証言によって多少なりとも知ることができるのは幸いなことだ．

CD

V.A., Piano Blues Vol.2, Document DOCD-5220.

チャーリー・シーガーが1934年から1940年の間に録音し，発売された8曲がすべて収められている．

Charlie Segar

CD

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