Judson Brown

1930年2月のことだ．Brunswick/Vocalionレーベルは新しいタレントを求め，移動式の録音設備を持ってテネシー州メンフィスで出張録音を行った．録音にはメンフィス・ミニー，カンサス・ジョー，ガーフィールド・エイカーズ，ジム・ジャクソン等メンフィスからミシシッピ州内の歌手がヒットを期待しつつ集まった．これらの歌手の中にMadelyn JamesとJenny Popeという女性歌手がいた．どちらも地元メンフィスで活動していた歌手で，メンフィス・ジャグ・バンドに飛び入りして歌を聞かせることもある2人であった．この2人の伴奏にJudson Brownという名のピアニストが起用された．ジャドソン・ブラウンの初録音である．

メンフィス録音のときに実力を認められたのか，2ヵ月ほどするとBrunswick/Vocalionレーベルはジャドソン・ブラウンをシカゴのスタジオに呼び寄せた．そこでブラウンはセント・ルイスの女性歌手Mary Johnson，やはりメンフィス出張録音のとき仮設スタジオに来ていたBozo Nickerson，変名を使って色々な会社に録音していたMozelle Aldersonらの伴奏者として起用され，その優れた技量を記録に残した．同年5月には自己名義の録音も1曲だけ行った．しかし，不景気が進行する中，その後はブラウンにレコード会社から声が掛かることは一度も無かった．

このブラウンの経歴などは全然分からないが，メンフィス出張録音のときに，メンフィスの歌手らしい人達の伴奏をしたとなればやはりメンフィスのピアニスト，と考えるのが普通だろう．

まったく現在となっては名前しか分からないようなピアニストであるが，技術は素晴らしいものがあった．ジャドスン・ブラウンの腕前の凄さが最もよく現れているのはモーツェル・アルダーソンの伴奏を付けた2曲だ．CDではこの2曲をYazoo 2035, 2044で聞ける．どちらもピアノ・ソロが入るのだが，猛スピードのラグタイム風の演奏をミスなく軽々と弾いてみせる．自己名義の録音はあまり良いとも思わないが，ボゾ・ニカーソンやメアリー・ジョンソンのバックを務めたものでも実力の片鱗は見せている．もっと録音を残して欲しかった人だ．

CD

Yazoo 2044, V.A., Barrelhouse Mamas.

1920年代と1930年代に録音されたピアノ・ブルースで，女性歌手が歌っているものを集めたCD．ジャドソン・ブラウンはメアリー・ジョンソンの2曲，モーツェル・アルダーソンの1曲で伴奏ピアニストとして登場する．

Yazoo 2035, V.A., Shake Your Wicked Knees.

ジャドソン・ブラウンはモーツェル・アルダーソンの伴奏をした1曲しか入っていない．しかし，その1曲Tight Whoopeeでブラウンの素晴らしいピアノを聞くことができる．なお，この曲はDocument DOCD-5504, Blue Girls Vol.2でも聞くことができる．

Document DOCD-5305, Mary Johnson, Complete Recorded Works In Chronological Order 1929-1936.

セントルイスの女性歌手メアリー・ジョンソンの全録音を収めたCD．ジャドソン・ブラウンが伴奏したものが6曲ある．他の曲ではルーズベルト・サイクス，ヘンリー・ブラウン，ピーティー・ウィートストローと，セントルイスの大物ピアニストが起用されている．

Judson Brown

CD

戻る

最初に戻る