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ブギウギ・ピアノとバレルハウス・ピアノの定義を巡る愚考
ブギウギ・ピアノとバレルハウス・ピアノは，厳密には違うものだ．違うのだけれど，特に初期のブギウギ・ピアノはバレルハウス・ピアノの一分野みたいな面もあって，区別不能な部分が多い．そこで本ページでは両者一緒にその情報を提供する事にしたい．ここでは，本ページでどのようなブルースをブギウギ・ピアノとして扱い，またどのようなブルースをバレルハウス・ピアノとして扱うかをできるだけ言葉で説明したい．
まず，ブギウギ・ピアノというものを，ここでは次の特徴を備えるものとする．
Boogie Woogie Piano:左手である特定のベース・パタン，およびその変種を執拗に繰り返すことで躍動感を強調していることを特徴とする，主にアップテンポの，ダンサブルなピアノ・ブルース．
「ある特定のベース・パタン」というのはどーゆーものか知るためには，結局ブギウギ・ピアノと世間で呼ばれるものを色々聞いて，経験的に覚えるのが一番良いと思う．また，ブギウギ・ピアノの研究書だとか，ピアノの教則本などを見れば何人かのミュージシャンの，代表的なベース・パタンを楽譜の形式で知ることもできる．そうやって聞き覚えたり，楽譜で見たり（私の場合見てもよく分からないが）して覚えたベース・パタンに大体似たところのある左手が使われれば，ブギウギ・ピアノの第一の条件は満たされる，と思う．
このブギウギ・ピアノのベース・パタンの特徴を「1小節に8個のビートを刻む」ことだ，とする説明をよく見る．しかし，これはどうも例外が多すぎるので，本ページではこれをブギウギ・ピアノの条件には含めない．1小節に4個のビートだけどブギウギに聞こえるものもあるし，昔からブギウギ・ピアノの傑作として知られているウェズリー・ウォレスのNo.29なんか4分の6拍子でダダダダダダと弾いている．それから，ブギウギ・ピアノをごく狭義にとらえる場合に，ブギウギとはインストゥルメンタル曲だ，とすることもあるらしい．しかし，本ページでは，ヴォーカルが入ってもピアノ伴奏がブギウギの特徴を備えていればブギウギ・ピアノと呼ぶことにする．
バレルハウス・ピアノはさらに曖昧な定義になってしまう．
Barrelhouse Piano:原則として弾き語り，ソロ，またはごく少数のリズム楽器がついた，洗練されていないピアノ・ブルースで，曲調は速いのも遅いのもある．
この定義で，「弾き語り，ソロ，またはごく少数のリズム楽器」という条件は，Barrelhouse（安酒場）では中編成以上のバンドを雇えそうもない，ということからしても妥当なものじゃなかろうか．また，「洗練されていない」とはまったく曖昧だが，例えばチャールズ・ブラウンみたいなタイプを除くために条件に入れた．このタイプにも優れたピアノ・ブルースはあるけれども，どうもバレルハウス・ピアノとは言えない．彼らのスタイルを指して「クラブ・ブルース」と言う位で，バレルハウスよりはよほど上等でお洒落なところが活動場所だったはずだ．また，ジャズ寄りのブギウギ・ピアノは，バレルハウス・ピアノとは違うように思われるが，その違いも洗練の程度の違いではないかと思う．