Joe Dean

その78回転盤レコードのアーティスト名は「ボウリンググリーン出身のジョー・ディーン」となっていたのだそうだ．ボウリンググリーンとはケンタッキー州にある地名だが，そのレコードを録音した歌手兼ピアニストはケンタッキー州とは縁もゆかりもない人物だった．ボウリンググリーン出身，とレコードに書かれたのは「ディーン」と「グリーン」の語呂合わせでレコード会社のA&Rマンだったメイヨ・ウィリアムズが付けたもののようだ．

ミズーリ州セントルイスの歌手兼ピアニスト，ジョー・ディーンは，1930年に録音され，Vocalion 1544として発売されたレコードの2曲しか残さなかった．1曲はI'm So Glad I'm Twenty-One Years Old Todayと題されていた．これは快調なテンポの歌入りのブギウギ曲で，eight-to-the-barの躍動するウォーキングベース，歌のノリの良さ，間奏，と文句のつけようがない出来だ．その裏面だったMexico Bound Bluesは慈味豊かなスローブルース曲で，暖かみある歌とピアノにうっとりとする．戦前のセントルイスではピアノブルースの逸品がいくつも録音されたが，このジョー・ディーンの2曲も見逃すことのできない傑作である．

録音が少なかった割にはこの人のことは良く分かっている．1977年にリサーチャーのマイク・ロウに発見され，インタビューされているからだ．その結果分かった経歴はCD（Yazoo 2043）解説書に紹介されている．それによれば，ディーンは1908年4月にセントルイスで生まれたということなので，I'm So Glad ...を歌ったとき，本当は22歳だったことになる．ずっと故郷のセントルイスを中心に活動していたのだが，音楽は1950年代にはやめてしまい，1970年代には聖職者になったということだ．シカゴの録音スタジオへ入ったとき，上に述べた2曲を録音したところで，母親が重病だったためスタジオを抜け出しセントルイスへ急ぎ帰ったのだそうだ．このとき，もう2曲位録音しておいてくれれば，と思わないではないが，まあ親が危なかったとなれば仕方無い．1930年と言えば無論大恐慌時代である．Vocalionレーベルがディーンを起用する機会は二度となかった．

ヘンリー・タウンゼンドはジョー・ディーンのことを始終酒に溺れていた音楽家として回想している（Henry Townsend and Bill Greensmith, A Blues Life, University of Illinois Press）が，本当はどうだったのか．鉄鋼会社に23年間勤務しながらパートタイムで音楽活動をしたという経歴からは堅気な面も感じられる．ディーンは戦後もピアノ・ブルースの才能を見せることなく1981年6月に亡くなっている．

CD

V.A.,Piano Blues Vol.1 1927-1936, Document DOCD-5192.

ジョー・ディーンの残した2曲が収められている．他にジャドソン・ブラウン，ジェシー・ジェイムズ，ジェイムズ・「バット」・ロビンソンらを収録．なお，カバーに使われているのがジョー・ディーンの写真だ．

V.A.,Shake Your Wicked Knees, Yazoo 2035.

I'm So Glad I'm Twenty-One Years Old Todayを収録．ブギウギ・ピアノの傑作コンピレーション．戦前のピアノ・ブルースの魅力を知るには最も優れたアルバムの一つ．

V.A.,Down in Black Bottom, Yazoo 2043.

Mexico Bound Bluesを収録．戦前ピアノ・ブルースの好盤．

Joe Dean

CD

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